『田園の詩』NO.107 「藁 こづみ」(1999.12.4)


 最近の稲刈りはコンバインが主流となり、藁(ワラ)は脱穀と同時にその場で細かく
切り刻まれて田圃に撒かれます。その後、適当な時期に焼くか、そのまま田圃にすき
込みます。

 今は、藁(稲束)をほとんど必要としなくなりましたが、 昔は大切に使われていました。
私が子供の頃には、農家の庭先で藁縄や俵・ムシロ・ゾウリなどを作っていました。また、
どの農家も牛を飼っていたので、藁は餌としてなくてはならぬものでした。

 ですから、脱穀した後の藁は、牛小屋を兼ねた納屋の二階に貯えていました。納屋に
入りきれないものは、田圃で円筒形に積み上げて保存しました。それを当地では≪(藁)
こづみ≫といっております。

 田圃にきれいに並んだ≪こづみ≫が、晩秋から初冬にかけてのこの時期、朝もやに
かすんだり、夕日に照らされたりする様は、農村の風物詩の中でも第一に数えてもよい
と私は思います。


           
         こんな光景を所々で見かけます。手前は簡単に立て掛けたもの、
           奥が、本格的に作った≪こづみ≫です。ワラも最近、割と利用され
           るようになってきました。      (09.12.1写) 

       (よろしかったら、こちらの写真もどうぞ。⇒ 【NO.58】  【NO.68】

 ところで、当地でもわずかにしか見かけない≪こづみ≫のことを女房と話題にして
いて、この名前が方言であることに私は初めて気付きました。京都ではそんな名では
なかったといいます。

 近隣の友達に尋ねてみたら、また違った呼び名でした。彼は≪としゃく≫といっていま
した。多分「稲積(とうしゃく)」から来ているのでしょう。ちなみに≪こづみ≫は「小積」
だと思います。

 「所変われば品変わる」で全国には数多くの呼び名があると思われます。『俳句歳
時記』を調べたら≪藁塚≫で出ていました。言葉の違いだけでなく、≪こづみ≫の形状も
各地で種々様々あるに違いありません。そんな≪こづみ≫を写真に撮って歩きたいと若い
ころ思ったことがあります。残念ながら出来ずじまいでした。もう無理でしょう。

 『歳時記』に、「藁塚が並び家々に子供あり」の句が載っていました。学校帰りに大勢
の友達とたくさん並んだ≪こづみ≫の中で、かくれんぼをした記憶が甦ってきます。

 今の田舎は、「藁塚がなくなり家にも子供なし」になってしまいました。
                       (住職・筆工)

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